アルデバーグの魔法の儀式

オーフォード・ネス観光の後にやってきたのが、小さな海辺の町 アルデバーグ。田舎町ながら、「イギリスいちのフィッシュ&チップス」というタイムズ紙の評価が、夕食時のメイン通りをにぎわさせている。

イタリアからサミットに参加していたエレアノーラというおもしろ毒舌の女の子が「日没の魔法の儀式」のパフォーマンスをするというので、ビールを飲みながら夕暮れを待った。

“魔法ーーすなわち世界と人生の変革ーーを妨害し、不在にさせているのは、しばしば自分という存在である。身体と精神を通ってやってくる支配と管理から、人は解き放たれなければならない。”
魔法は宗教ではなく、科学ではなく、芸術の一種なのかも知れない。

日没が近付くと牧草地に行き、エレアノーラに指示されて皆輪になって座った。

彼女は人間の輪のすぐ内側に沿って、後で火をいれるための化学液の入ったアルミの受け皿の輪を作った。
「心を静かに落ち着けて、耳を傾けて下さい。みんなが自分の心の声を聞きはじめたと思ったら、火を点火していきます」
静寂。海の音。お腹すいた。
だんだんフィッシュ&チップスのことしか考えられなくなってきた。
エレアノーラとその助手に抜擢されたアイルランド人の男の子がアルミの皿に火を灯しはじめた。緑色の火。バリウムだっけ?
なかなか美しい眺めだ。

エレアノーラたちは液体をアルミ皿に追加するため、もう一度巡回をはじめる。
「わあ、私の鞄が!」という叫びが儀式を中断した。
私のはす向かいに座っていた女の子の鞄が一瞬炎につつまれたのだった。
気が付くと、ところどころで火の手があがっている。
パリから一緒に来たレティシアという女の子が隣で飛び上がって、マントで火を消し止めに行くのが見えた。
儀式を中断されたエレアノーラが怒って怒鳴っているが、牧草に燃え移った火を消火しようとするレティシアに数人が加わっていった。
私はというと、ぼんやりしながらエントロピーが増大していくのを眺めていた。
その前の晩にエレアノーラに緑色の火を見せてもらっていて、その火が全然熱くなかったので、なにか「幻想の火」のようなものだと思っていたのだ。
後で化学者のジョニーからやっぱり化学薬品を扱う時は注意しなくてはならないことを聞いて、やっとみんなの慌てぶりが納得できた。ジョニーの言葉を尊重しつつも、パフォーマンスアートはハプニングが一番おもしろいので、エレアノーラの儀式はなかなかの成功だったのではないかと思う。
こうして幕をしめた魔法の儀式の後、ようやく待望の国一番のフィッシュ&チップスにありつくことができた。ロンドンで食べた油べとべとのものとは違ってさくっと揚っていて、魚の身もしまっている。

ところで、このサフォークでのサミットの間中、参加者の身に奇怪な出来事が起こり続けていた。化学者のジョニーは一日目に足を痛めたし、初めててんかんの発作を起こした人、座っていた椅子がいきなり壊れて地面に投げ出された人、エレアノーラのサーバーはハッカー攻撃を受け、レティシアはこの儀式の後にカメラをなくした。
砂利の浜に座ってフィッシュ&チップスを食べていると、誰かが私の名前を呼んだ。
「はい」と答えて声のした方を見ると、誰もいない。「誰か呼んだ?」と聞いても、誰も返事をしなかった。
レティシアも自分もその声を聞いたと言ってくれた。
その話をある日本人の友達にしたら、
「幽霊屋敷とか行ったみたいだけど、真剣だった?ふざけてなかった?」
と、聞かれた。
「サイコジオグラフィーは遊戯だから、たぶんふざけていたかも」と答えると、
「だからだよ」と言われた。
そういえば、前に書いた悪魔払いをされた民家に泊まった時も7人中二人が病気になったんだった。

凧ビデオ 
Aldeburgh - kite video 1 http://vimeo.com/29107862
Aldeburgh - kite video 2 http://vimeo.com/29110386
その他ドキュメント
Aldeburgh - photo set http://www.flickr.com/photos/uair01/sets/72157627695080172/
http://www.psychogeophysics.org/wiki/doku.php?id=summit2011:friday