オーフォード・ネス

オーフォード・ネスはサフォークの海岸にある嘴状の半島で、歴史に登場するのは第一次世界大戦あたりからである。この地では二つの世界大戦を通って冷戦終結まで、政府による核実験やレーダーの開発などが行われた。現在はナショナル・トラストが所有し、一部が一般に公開されている。
オーフォード・ネスにある小さな博物館には、それ以前の写真も展示されていた。一世紀ほど昔は、漁業と放羊のさびれた集落だったようだ。

オーフォード・ネスに行くには、対岸の漁村からフェリーに乗らなくてはならない。待ち時間の間、カフェの隣の小さい店でカップに入った1ポンドの小エビや貝の刺身を買って食べる。
フェリーは10人乗り程度の小さなもので、3分程度ですぐにオーフォード・ネスに着いてしまう。そこでガイドからマップをもらって説明を受け、以前は軍が使っていた場所なので整備された道以外は絶対に立ち入らないように忠告された。

オーフォード・ネスでの核実験では、放射性物質は使用されなかったそうだ。ところが、ロンドンの大学で人文科学を教えている同行者が、フェリーを待っている間、対岸の村の観光案内でそのことを尋ねると、そこのおばちゃんは「オフィシャリー ノー(公式には使ってない)」という含みのある答えを返してきたそう。ガイガーカウンターを持ってこなかったことが悔やまれた。

一本道の両側に羊の放たれた牧草地が広がっており、ところどころに軍用の建物がある。その内のひとつがさっき書いた博物館で、レーダーの歴史の展示などがしてあった。レーダー開発者のロバート・ワトソン・ワットが後年スピード違反でたびたびレーダーのねずみとりに引っかかり、「あんなものを発明するんじゃなかった」と言っている記事がおもしろかった。

その内に牧草地がなくなり、川を渡ったあたりから、風景はだんだんこの世のものとも思えない不思議なものへと変わっていく。平らな砂地の上に巨大な軍用の建造物が点在しており、草がまばらに生えている。

橋の上から

昔は倉庫か研究施設だったらしい廃墟の横で腰を落ち着け、各自が凧揚げ、撮影や、キルリアン写真の下準備をはじめた。また、化学変化を利用した音楽をやっている化学者ノイズミュージシャンのジョニーは、一年ぐらい後に回収してプロジェクトに利用する目的で、避雷針(導雷針)を地面に埋めた。

ジョニー作業中

そうしていると、ナショナル・トラストの職員がジープでやってきて、車を降りながら「みんな、やめろ!」と怒鳴った。一人一人の目を見て訴える彼の長口舌はとてもドラマチックだった。
「僕の仕事はオーフォード・ネスの希少な植物を守ることだ。そして、僕はここを訪れる皆さんも同じ気持ちを共有していると信じていた。なのに何だ、君たちは。ここには珍しい植物が生えているんだ。そのアートハウス映画の撮影は終わりだ」
オーフォード・ネスの植物が希少かどうかはよく分からないし、それ以前にほとんど生えていないし、本当に観光客がちょろちょろとしか生えてない草を見るためにここへ来るのかどうかは怪しいものだったし、その上、私たちの撮影していたのはアートハウス映画なる代物ではなかったが、イギリス人らしい合理的で明晰な演説を聞いて感心した。
彼が去った後、マーティンに「今の録音した?」と聞いたら、彼は「そりゃあ、僕は馬鹿じゃないからね」と答えた。

オーフォード・ネス 凧ビデオ http://vimeo.com/28856574
その他ドキュメント http://www.psychogeophysics.org/wiki/doku.php?id=summit2011:friday

オーフォード・ネスはイギリスでもとても珍しい場所なので、サフォーク州へ行く予定があって変なものが好きな人は是非行ってみて欲しい。