ローマの道は異界に通ず

ローマに行く前に改めてダリオ・アルジェントのProfondo Rossoを見た。邦題は「サスペリアPART2」というらしいが、サスペリアとはまったく別の映画なのにどうしてそんなタイトルにしたんだろうか。オリジナルタイトルの方が100倍も響きがいいのに。
私はイタリアのホラー映画は世界一だと思っていて、なかでもProfondo Rossoは心からリスペクトしている。

楳図かずおがローマをたずねるNHKのドキュメンタリー「ローマの道は異界へ通ず」は、イタリアのホラー文化の源泉をさぐるという視点がとてもおもしろかった。迷信とか自然への畏怖が根底にあるジャパニーズ・ホラーもすごいけど、カトリック教徒の罪の意識の産物であるイタリアン・ホラーの強烈さには圧倒される。
楳図先生がアルジェント監督の経営するショップ「Profondo Rosso」を訪ねて対談するシーンもあった。私もその店へ行ってみたけど、あいにく日曜日で閉まっていて残念だった。ちゅうか、あのアルジェントも日曜日はカトリック教会のルールに従ってお休みするんだな・・・

パリに長年住んでいるので、ヨーロッパの他の都市を旅行する時はついついパリと比較してしまう。
ロンドンはサイコジオグラフィーの支持者が多くて、切り裂きジャックやロンドン塔の幽霊、ロンドンの地下などの研究もさかんだ。古くから栄えた町という多層的な空間のそれぞれの層へタイムトラベルしようという遊び心がいっぱいである。
ロンドンと対照的なのがパリで、カトリック教会の優等生フランスの首都は、地下にはたくさんの骸骨が積み重なっているにもかかわらず、表に出ている物はきれいで洗練されている。『フランスは教会の長女』というフレーズを世界史で習ったのを覚えているが、同じく『長女』の称号を狙っていたスペインと争ってやっと獲得したにもかかわらず、後から思えばあまりにもしょーもない出来事だったので当のフランス人ですらそんな肩書きのことは忘れかけている一方で、フランス各地の町にはローマ教皇庁の気を惹こうと媚を売った名残があらわだ。デカルトの影響も強いみたいで、みんな表に出ている物だけを見ている感じがする。
こういう例外もいくつかあるけれど: フランスのサタニズム教会 http://d.hatena.ne.jp/benegeserrit/20111201/1322761328
一方でローマは、教皇庁がそこにあるのにも関わらず、多分地下に潜む血なまぐささを抑えきれない。古代と中世といまが町の中に同居していて、どうしても異界が垣間見えてしまう。だからローマの人たちはそういう血の臭いに反応して、ああいう悪魔的な映画を作ってしまうのではないだろうか。

ローマの町のあちこちから立ち上るホラーの香り

イタリア人はしゃべってばっかりの怠け者だと思っている人も多いと思うが(私も前はそうだった)、ローマ文明を作っただけではなく、ルネッサンスもヌーヴェルバーグもイタリアから始まっているのでなかなか侮れない。物作りに関しては、革製品をとっても、セラミックをとっても、ヨーロッパいちだと思うし、建築も食もイタリアの物は秀逸だと思う。手先の器用さや物作りへの情熱は日本人に似ているかも知れない。今まで嫌いだったのに、今回の旅行でイタリアが好きになれて良かった。

ついでに書いておくが、イタリア、日本にならんで驚異的なホラー作品を作る国がナイジェリアである。先進国諸国がもう失ってしまった天真爛漫な発想がとても素晴らしい。
タコ・ベンソン監督の「エンド・オブ・ザ・ウィキッド」予告編