サイコジオグラフィー関連の書籍

サイコジオグラフィー関連人物のなかで、wikipediaの日本語項目があるのは、フランスのギー・ドゥボールだけみたいだ。

そこから引用すると、

“語の広い意味で、ドゥボールの理論は、第二次世界大戦後、欧州の近代化の経済力によって日常の生活圏の公私ともにわたる近代化の精神的衰えについて説明した。同一問題の双子の顔であるとして、西側の資本主義と東側の国家主権主義との両方を拒絶した。”

と言うことで、サイコジオグラフィーのこころみは日本の廃墟マニアやB級スポット探索と共通点がないこともない。「ワンダーJAPAN」みたいな雑誌もあるし、日本は時代を問わずに珍奇な遺跡や伝説、ポストモダニズムのめまぐるしい遷移のなかで産み出された奇妙な空間など対象には事欠かないので、サイコジオグラフィーが発展する基盤はじゅうぶんに整っている。

イギリスのSF作家J・G バラードの「コンクリート・アイランド」は、高速道路で事故を起こした男が道路に封じ込められた中間スペース“島”に閉じ込められる話だ。展開するのは、地理的環境が人間の心理に与える効果と原理というサイコジオグラフィックなテーマで、私の中では高速道路はこの本と切っても切り離せないものになっている。「結晶世界」も「時の声」も「クラッシュ」も良かったけど、何度も読みたい本でもないけど、バラードの中で一番印象深いのは「コンクリート・アイランド」。

コンクリート・アイランド

コンクリート・アイランド

結晶世界 (創元SF文庫)

結晶世界 (創元SF文庫)

時の声 (創元SF文庫)

時の声 (創元SF文庫)

クラッシュ (創元SF文庫)

クラッシュ (創元SF文庫)

パリのブックオフで衝動買いをした種村季弘の「江戸東京奇想徘徊記」もサイコジオグラフィー書籍と言える。著者が江戸の面影を残した東京の各地を徘徊するというルポルタージュで、戦前の昔から今にいたるまでの東京を知る種村さんの解説がとても貴重でおもしろい。種村さんの翻訳物は以前に読んでいたが、本人の著作物を読んだのははじめて。ドイツ文学者でヨーロッパの特にアンダーグラウンドな歴史、幻想文学やオカルトに造形が深いのは知っていたが、日本の文化や歴史全般にたいする博識にも驚いた。
タイトルに「奇想」とあるとおり、江戸時代の安楽死「蓮華往生」を挿入した碑文谷の章からはじまる。機械仕掛けの蓮華の花のなかに安楽死希望者を入れて花びらを閉じ、お経の合唱の最中に花の下から信者の肛門を槍で刺して殺す。叫びはお経でかき消され、花びらが開くと信者は安らかに死んでいるという江戸時代に日蓮宗のお寺で行われていた宗教アトラクションの話。
26章目では、南総里見八犬伝ゆかりの大塚へおもむく。"昼でも鬱蒼としていて芝居の殺し場のような”剣呑とした界隈を歩きながら、資料をつなげつつ八犬伝の殺しの舞台のモデルはここだったのかななどと思いをめぐらせるくだりはまさに日本版サイコジオグラフィーだ。
私はフランスにいると言えど日本人なので、やっぱり日本の町の懐の奥深くに入って行く感覚が心地いい。

タロットカードと数秘学やカバラとの関わりについては聞いてはいたが、種村さんの翻訳で読んだベルヌーリの「錬金術とタロット」のおかげで目からウロコのタロットの謎が学べたんだった。

江戸東京《奇想》徘徊記 (朝日文庫 (た44-1))

江戸東京《奇想》徘徊記 (朝日文庫 (た44-1))

錬金術とタロット (河出文庫)

錬金術とタロット (河出文庫)

今後もサイコジオグラフィー関連でおもしろい書籍を見つけたら紹介していく予定。