諸星大二郎の本

サイコジオフィジックスのワークショップに参加するために行ったベルリンで途轍もない寒波に襲われ、そのうえ、着いてすぐに生まれて初めて持ち金ぜんぶとカードの入った財布をなくし、帰りの飛行機もあとわずかで乗り遅れそうになったショックでしばらくブログ更新を怠っていた。
飛行機に乗り遅れそうになったのはお前の責任だろうと言われそうだが、そうではない。
シェーンフェルド空港からベルリン市内をつなぐ電車のダイヤがややこしくて、一日に一便とか、旅行者が知る由もない変な組み方になっていたため、行きと同じ方法で帰ることができないということが予測できなかったせいだ。
あまりにも不運が続いたので、もう不運を使い果たしたというか、今年の残り11ヶ月は安泰に暮らせそうである。

パリに戻った日の晩にノイズのコンサートに行き、財布の件で皆が同情してくれて、ただで入れてくれたり、ドリンクを買ってくれたり、やっとリラックスできた。
翌日、へそくりの日本円を両替に行ったが、レートはもうユーロとほぼ変わらない。一年ぐらい前から両替のレシートは捨てずに保管しているが、レートはうなぎのぼりで、毎度少し儲かった気分になれるので、いつも帰りにオペラのブックオフに寄り道する。
パリのブックオフは日本の店舗に比べて内容がとても良く、掘り出し物が多い。
今回は、ハードカバーの2ユーロコーナーで、「キョウコのキョウは恐怖の恐」という諸星大二郎の初小説を見つけた。

ホラー映画は大好きだけど、ホラー小説はほとんど読まない。怖がらせるのがメインになってしまって、描写が貧弱なものが多いように思えるからだ。その点、諸星大二郎のゆっくりと描いていく異世界の描写はとても効果的で、マンガの方のファンの人たちが気に入るかどうか分からないが、私はとても面白く読めた。日本に対するホームシックというか、郷愁を自分が強く抱いているというのも手伝ってか、「秘仏」に出てくる田舎の寺の感じにも惹き付けられたし、ヨーロッパの紫陽花にはない、あの日本の梅雨時の紫陽花の妖艶な印象もインパクトがあった。
映画の原本としてもいけると思う。

キョウコのキョウは恐怖の恐

キョウコのキョウは恐怖の恐