ロカマドール

フランス中部の町ロカマドール Rocamadour はアルズー渓谷の断崖に築かれた古い町で、遠くから見るとまるで町が崖と一体化したように見える。12世紀に聖アマドールと思われるミイラが古い墓から発見され、それが数々の奇跡を起こしたことが12世紀の書物に記されている。そのために巡礼者が訪れるようになり、その中にはフランスや英国の国王も含まれている。

ロカマドールのノートルダム教会には黒マリア像がある。黒マリアというのはジプシー信仰、つまり異端で、サン・ジャックの巡礼路はカトリック信仰に属するものなので意外だった。

ここに来る前に訪れたカタリ派の町アルビの教会は、カタリ派の面影はまったく消え去ってローマ・カトリックに淘汰されていた。13世紀、フランス国王軍がフランス南部のペイ・カター(カタリ派地方)へ十字軍を送り込んで制圧した結果である。カタリ派は、ディックの小説「ヴァリス」にも出てくるグノーシス派のフランス版のようなもの。ヴァリスはディックの小説の中でも私が最も好きな作品のひとつ。

ヴァリス (創元推理文庫)

ヴァリス (創元推理文庫)

異端や民間信仰の排除をつねにもくろんだローマの教皇庁にとってアルビのような平野の都市は管理しやすかったのだろうが、逆に山間や谷間に点在する巡礼路の方は監視の目が行き届かずに民間信仰や異端思想の行き交う交差点になっていたのかも知れない。

町の最上部には城が建っていて、現在は修道僧たちの寄宿舎となっている。もともとの要塞の機能をそなえてはいるが、小規模な庭園があったり、どちらかというと居住向け寄りの城なのが少し引っかかった。かつてここに住んでいたのはパリから来た国王の親戚だか貴族だかだったらしい。これほどアクセスの困難な深い谷間の町になぜフランス国王とのパイプが存在したのだろう、とあれこれ思いを巡らせる。

以下は私の妄想。

ロカマドール周辺の地下には数々の鍾乳洞が点在している。

ここで話はいったんノルウェーに飛ぶが、ナチスの侵攻下、国庫に保管された金塊をどうにかして守ろうとあれこれ思案したノルウェー政府は妙案を思いつく。金塊を橇の中に隠して、子供に運ばせれば気付かれないのではないか。金を積んだ橇にのった子供たちはナチスの兵士たちの目の前を無事通過し、金塊はノルウェー北部のどこかに隠されたというエピソードは、タイトルは忘れたが映画にもなっている。
第二次世界大戦以前には一度も外国の侵攻を受けたことのない日本も、米軍が沖縄に上陸すると、現在慶応大学のキャンパスのある日吉台に巨大な地下施設を建設し、万が一の場合には天皇をそこへ移す予定だったと言う。日吉台の住民さえも気付かないほどの極秘工事だったらしい。

ロカマドール周辺の鍾乳洞は、戦争時の金塊の隠し場所だったのではないだろうか。意外な隠し場所だから見つかりにくいし、最高級ではないにしても要塞都市としての高い防御能力もじゅうぶん条件に叶っている。これでフランス国王がロカマドールの町に代理人を置いていたのも説明がつく気がするけど、このアイデアはフランス人の友人には支持されなかった。(フランスの金保有高は世界4位とか5位とかで、ナチス侵攻の時にはアルジェリアへ運び出したそう)

じゃなかったら、もしかして、アタナシウス・キルヒャーの考えた「地下世界」みたいなのがロカマドールの下に広がっているとか?

キルヒャー「地下世界」