アントワーヌ・ダバディーの城 

アントワーヌ・ダバディーは19世紀のフランスの科学者(天文学)、探検家、言語学者、ゴシック芸術復興の功績者。エチオピアの探検を行い、フランス科学アカデミーの会員になったが、フランス国外はおろか国内でもあまり知られていない。

大西洋岸の町アンダイエにダバディーの建てた城がある。

建築様式はネオ・ゴシックと呼ばれ、建築家ヴィオレ・デュ・デュックの手になる。カトリック教会の力が強く、またデカルトの懐疑主義が主流のフランスでは最早ほとんど見かけることのない神秘的・錬金術的な象徴がちりばめられていて興味深い。

城の中は、天文観測所、居住区域、チャペルの三つに分かれている。内装は宇宙曼荼羅のような幾何学デザインにエチオピアのエキゾシムが混ざった感じ。

食堂(写真撮影は本当は禁止です・・)


ダバディーは前述のヴィオレ・デュ・デュックほか、神秘家アラン・カーデックの影響を受けてフランス国内の数々の幽霊屋敷の調査を行い本にまとめた風変わりな天文学者カミーユ・フラマリオンなどとも交遊があったそう。

フランスの大西洋海岸地域は1920年代初めにリゾート開発され、人気を集めた。
H・G ウェルズやオルダス・ハクスリーもこの頃アンダイエ付近のリゾートに滞在している。

フランスの大西洋。暖かく、波が大きい。

1940年には、ヒトラーがスペインのフランコとアンダイエの駅で会談している。

アンダイエの町の中央の広場には、未来の世界的大災害に関する暗号化された情報が含まれるという錬金術のシンボルが彫刻された石のクロス Great Cross of Hendaye が立っている。隣接する教会の壁には今もなおダバディー家の紋章が記されており、このクロスを研究する人々は必然的にダバディーという人物に興味を持つ。アンダイエはバスク地方に含まれる。バスク語は欧州の言語の中でインド=ヨーロッパ言語に属さないたった5つの内の一つで、5言語中現在生き残っている唯一の不思議な言語だと言われている。また、バスク地方はフランス領と言えどもケルト文化とのつながりが深く、その文化は独特で神秘的だ。アントワーヌ・ダバディーもバスクの血を引いており、バスク語やバスクの文化を研究していた。こうした背景をからめてクロスの謎を読み解こうとしても、謎は深まるばかり。