ボマルツォ 怪物公園

ローマに行って絶対見たかったのが、ボマルツォの怪物公園。16世紀の中頃に有名なオルシーニ家のヴィチーノ・オルシーニが自宅に作った庭園で、その後長いこと放置されて荒れ果てていたのを現在のオーナーが復元したそう。

公式ページにはローマから公共交通機関(電車+バス)でアクセス可、とあったが、どうしてこういけしゃあしゃあと適当なことが言えるのか?もしかして、30%ぐらいの確率で日帰りが可能かも知れないが、電車が遅れるのは当たり前の国なのですごく大変なのはやる前から明らか。その晩飛行機でパリに帰ることになっていたから、危険な賭けはやめてレンタカーで行った。

道中は快晴で紅葉がとてもきれい。

一時間半ぐらいで丘の上に築かれたボマルツォに到着。怪物公園は町からすこし離れた森の中にある。
怪物公園というのはどうやら通称で、入り口でもらったパンフレットには“聖なる森”となっていた。底にとてもきれいな谷川の流れる丘の斜面に35のシンボルが点在している。

入り口付近

2 プロテウス

4 巨人の決闘

5 亀

13 傾いた家 (中に入ったときのあの変な感じは忘れられない)

19 オーガ

20 ドラゴン

21 象

27 フュリー(天使)

29 人魚エチナ

34 寺院


ところで、私は記憶力だけは良くて、知らない町でも道に迷ったことがない。通りの名前も覚える必要がないので覚わらない。名前というのは記号に過ぎないし、物と結びつけて覚えた方が確実だからだ。そう言えば、印刷技術の発明される前のギリシャでも、物と事柄を結びつけるという記憶術が実践されていたようだ。そして、それは印刷技術が発明された後も廃れずに、オカルト的記憶術の方面へと発展した、という話をどこかで聞いたことがある。ヨーロッパには、そこにあるシンボルの意味が分かる人たちにとっては最大の図書館と言ってもいい「記憶の森」のような庭があるのだと。
そのことがずっと記憶に残っていて、庭園に行くときはいつも「ここがそうなのかも知れない」と注意深く見ていた。
ルネッサンス時代に流行った百科事典的な庭、というのなら見たことがある。これはフランセス・イエイツの『薔薇十字の覚醒 隠されたヨーロッパ精神史』に断片的に出てくるし、平井浩さんの編集で発表された「ミクロコスモス」第一集の「百科全書的空間としてのルネッサンス庭園」(桑木野幸司)にも詳しい。イタリア各地の庭園ほど完成されたものではないにしても、ロワール地方の「モーパッサン庭園」は確実に百科事典的な様子を呈している。

ボマルツォの怪物公園の入り口でもらった地図の下に、こう書いてある。
「・・・“レディーたちと騎士たち”が彼らの求めるものを探求し、迷うまで歩き回るシンボルのラビリンス」
もしかして、この“聖なる森”があの噂に聞いたオカルトの記憶の森だったのだろうか。そう思ったので、地図に記された番号どおりに忠実に歩いた。

フランセス・イエイツの『記憶術』という本は、今私が書いたまさにそのもののことを扱っているらしいので、読んでみたいと思っている。

記憶術

記憶術

  • 作者: フランセス・A.イエイツ,Frances A. Yates,青木信義,篠崎実,玉泉八州男,井出新,野崎睦美
  • 出版社/メーカー: 水声社
  • 発売日: 1993/06
  • メディア: 単行本
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ボマルツォはあまり知られていない一方で、有名人のファンもいっぱいいるらしい。ダリ(21番の象を見て納得)、ニキ・ド・サンファル(27番のフュリー)、あとはミケランジェロ・アントニオーニがこの庭のドキュメンタリー映画を撮っている。ネットで探しても静止画さえも見つからないほどのお蔵入り状態だが、いつかひょんなことで見れるかも知れない。