フリーメーソンミュージアム Musée de la Franc-Maçonnerie

パリのカデ(Cadet)にあるフリーメーソン美術館、Musée de la Franc-Maçonnerie を見に行った。

日本語のウィキペディアには、日本ではフリーメーソンはおどろおどろしいイメージで捉えられているが、これは偏見で、友愛と互助精神の団体だということが書かれているが、フランスであれ、アメリカであれ、イギリスであれ、何かおどろおどろしいものと思っているのは同じである。少なくとも、私の周りではフリーメーソンをただの友愛と互助精神の団体だと思っている人は一人もいない。

フリーメーソンの発祥地とされるイギリスでは会員数も多いぶん、アンチ・フリーメーソンも存在し、私のイギリス人の友人のおじいさんもその一人だったそうだ。フリーメーソンに入団すれば出世に有利、と手軽に入団する人も多いが、そういった人々はせいぜい第三階位の親方どまりだろうから、ウィキペディアのいうとおり何の害もないのだろう。イギリスの警官にも会員が多いらしいが、『交通違反もフリーメーソンの兄弟だったら見逃してやろう』ぐらいのレベル。
ただ、33階位あるフリーメーソンの階級のどこらへんからか非常におどろおどろしい色彩を浴びるのはたしかで、そのイギリス人によると、「何階位かの儀式でカマをほられる」らしい。ほんとかな。

「グランド・オリエント」と書かれた美術館の前でそのイギリス人友人と待ち合わせする。通りは八百屋、総菜屋、パン屋やカフェなどの並ぶ典型的なパリの中産階級的商店街。
グランド・オリエント=フランス大東社はフランス発祥のロッジで、英米のロッジとは仲が良くない。正規のロッジとちがって、女性でも会員になれるのが特徴だ。モーツァルトがメーソンの儀式を描いたオペラ「魔笛」には女性も出てくるから、モーツァルトはフランス大東社系のメーソンだったのかな。グランド・オリエントという響きには、植民地時代に植民地におけるネットワークとして広まったフリーメーソンの歴史が感じられる。

展示品はドイツの敗戦後にKGBに没収され、近年モスクワからフランスに戻ったメソニックシンボル入りの装飾品、絵画、食器類などなど。ニュイ・ブランシュ(国立美術館に真夜中まで無料で入れる日)だったせいで、会場は人々で賑わっている。
偏見のある見方かも知れないが、大げさなぐらい「私たちは何も隠していませんよ」的な愛想をふりまいている節があって、逆にうさんくさい印象を受けた。

お茶目な展示品の一例。

展示を見終わって話しながら廊下をぶらついていると、赤ら顔で陽気なメーソン会員が話しかけてきた。ロッジで英語を話すのは自分だけで、これこれの曜日にはここにいるから、今後も訪ねてきて欲しいとのこと。
展示品の写真をとってもいいかどうか聞いてみると、「もちろん!どこでも自由に見て歩いて下さい」と言われたので、廊下沿いのドアをあけて中へ入ってみた。改装されたばかりで塗り立てのペンキが真っ白な空っぽの部屋にぽつんと梯子がかかっている。これは何かの象徴だろうか。エシュロンとか、ヤコブの梯子とかが頭の中をめぐり、うすら怖くなってくる。
部屋にはもう一つドアがあり、開けてみると地下へ続いてくる。おかしなことに、そのドアは内側からは開くが、外側からは開かないような造りになっている(外側にはノブがない)。後から入ってきたアメリカ人のカップルと一緒にひとしきり騒いでからふたたび廊下に出ると、さっきの陽気なおっさんが外で待ち構えていた。ニコニコしながら地下に続いているのは駐車場だと言われたが、何かと不信感の募る訪問だった。

その日はニュイ・ブランシュだったので公開していなかったが、前に行った時に見学できたテンプルはこんな感じ。世界史の教科書に載っているフランス革命の「人権宣言」もここにある。

マグカップやマグネットなどのメーソングッズも販売しているので、フランス土産にいいだろう。

フランス共和国の象徴「マリアンヌ」が家の近所に立っている。フリーメーソンのシンボルだと言う。この女神がどういった経緯でなぜレピュブリック広場に立っているのかはフランスの学校でも教えていないそうだ。大東社とフランス革命との関係をもっとはっきり分かるように展示してくれていたら、うさんくささは払拭されていたかも知れないのに。