ムラージュ博物館

ムラージュというのは傷病の記録や医療教育に使用された模型などのことで、かつては石膏で採った患部の型に蝋を流し込んで作成したものに色付けをして仕上げられた。

家から徒歩で10分ぐらいのサン・ルイ病院の博物館に世界最大のムラージュ・コレクションがあることはつい最近知ったのだが、この施設の事は生粋のパリジャンにもあまり知られていない。

見学は予約制。サン・ルイ病院のゲートをくぐると、いろいろな建物や娯楽施設、公園、野菜畑などがあり、さながら独立国家のよう。
テニスコートのそばにある庭付きの落ち着いた建物がムラージュ博物館で、玄関ホールには、サン・ルイ病院の歴史にかかわる人々の肖像画やルイ14世時代の病院の全体図、彫刻などが並んでいる。展示ホールは二階で、4000千点以上のムラージュが病気ごとにまとまって展示されていた。

写真などの記録ほど生々しくはないのに、予想以上に強烈だった。普段は撮影禁止の場所でも写真をこっそり撮ってしまうのだが、ムラージュ作成に協力した患者さんたちにリスペクトを示したいと思い、今回は撮らなかった。

いろいろ印象に残ったものがあったが、一番強烈だったのは、部屋の片隅の薄暗い場所に一枚だけかけられていたA4ぐらいのサイズのおでこから血を流している女の絵だった。友達は、後ろの壁のひび割れを隠すためにかけたんじゃないかと言っていたが、どう見ても確信犯にしか思えない・・。

入ってすぐ右の棚に鑞のりんごと梨がかざってある。サン・ルイ病院は、ジュール・バレッタという蝋細工の作者にまずこのりんごと梨を作らせて、それを見て採用したそうだ。バレッタは約2000点のムラージュを作成したらしい。