菊人形の不思議世界

子供の頃、7巻ぐらいがセットになった図鑑が家にあって、好きだったのが「恐竜」と「花」の巻だった。
恐竜のは、ゴジラの着ぐるみをきたお兄さんが頭だけ出している写真が載った横に「怪獣は恐竜じゃない」という説明のある変なページがあったのが強烈だったが、それ以上に印象的だったのが、花の図鑑の中の菊人形のページだった。小さい子供には生首にしか見えない武将と姫君の頭が、波のように広がった菊の上に載っている。「ホラーだ」というのが、幼心に刻み込まれた。

そのトラウマを抱えたまま大人になり、好奇心から、毎年秋になると菊人形展を見に行くようになった。
人形に菊の花の衣装を着せる、という奇抜なアイデアがただただ素晴らしいうえに、庭園や日本家屋のなかに配置された菊人形たちはビジュアル的にも美しい。昼間は可憐だけど、夜中にひとりで見たら、絶対に怖いだろうな。ワンダーJAPANのような雑誌がこの日本の珍風景を特集したり、菊人形系、菊プロイテーションといった新たなホラー映画のサブジャンルが成立してもいいと思う。

菊人形展には必ず菊花展が併催されていて、こっちの方もなかなかすごい。ひと鉢の菊がピラミッドのようにどの花も列ごとに同じ高さから茎を伸ばして、花と花の間の距離もぴったり同じのあの宇宙の幾何学模様みたいなしろものは、多分固有名詞があると思うんだけど、見るたびに新鮮な驚きをおぼえる。
こういう菊の作品(菊細工)を作る人たちを「菊師」というらしい。なんとか師という職業はぜんぶかっこいい。ちなみに菊人形の発祥は江戸時代だそうだ。

私もフランスで菊師になってみたい。フランスだからマリー・アントワネットとかナポレオンに菊の衣装を着せればきっと受けるだろう。一度、フェースブックに菊人形の写真を載せた時は、外国人にもなかなか評判が良かったし。

日本最古の菊人形展、ひらかた市民菊人形の会の人形菊栽培の様子 http://www.eonet.ne.jp/~ryokka/kiku/seizoukatei.html#ninngyougiku201112
人形菊はのべ30種類もあるらしいので、衣装の色彩構成もたのしそう。

ひらかた大菊人形 唯一の人形師、武河さん http://www.eonet.ne.jp/~ryokka/kiku/takekawa.html